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瀧藤圭一の戦略会計【実践編】

売り上げを増やすには、二つの方法しか手立てはない

有限会社エルコーポレーション 代表取締役

瀧藤圭一* (たきふじけいいち)

最適な改善策

企業の経営をより良い状態に改善するには、儲けを増やすしかありません。この儲けを増やすには、収益を増やすか経費を減らすか、もしくはその両方を行なうか、このどれかを行なえば儲けは必ず増えることになります。問題はどれを優先して行なうか?です。

ほとんどがこの困った状態に陥ったのは、売り上げが下がったからだと考えます。そこで何とか売り上げを増やす方法を考えるのです。というのも儲けである利益を計算する公式は、売上高-費用=利益ですから、この順番からすると、まず売り上げを増やそうと考えるのは至極当然のことでしょう。

当然その場合、売り上げを上げるにはまずそのための費用が必要になってきます。クリーニング業の場合はそれほど大きな金額にはなりませんから、比較的安易に売り上げを上げようとされます。しかし、他の業界では安易に売り上げを上げようとすると、大変な落とし穴に陥ることになります。一般的に売り上げを上げるために多く売ろうとすれば、販売するための仕入れ量を増やしたり、生産点数を増やしたりしなければなりません。

ということは、それだけ費用も多くなるのです。多くの量を仕入れても、生産しても右から左へと直ぐに売れるとは限りません。つまり、直ぐに売り上げにはならないということです。仕入れや生産にかかる費用は発生していますので、その支払いをしなければなりません。ここに仕入れや生産にかかる支払いと売り上げとの間に、タイムラグが発生します。売れれば売れるほどお金が無くなっていく。これは困ったことになりました。この状態を救済するために、金融機関から「運転資金」という名の短期借り入れが存在します。

幸いなことにクリーニング業にはほとんど仕入れがありません。仕入れるのはハンガーやビニールカバー、溶剤や洗剤等の消耗品がほとんどで、原材料費としては売上高の10%にもなりません。それだけに他の業種とは違い売り上げを増やすことが経営改善、つまり儲けを増やすことに繋がると考え易いのです。

また、一歩進んで数字が分かってくると、本業の儲けである営業利益を金額ではなく売上高に対する比率で見ようと考え、売上高を上げさえすれば数値は改善され、経営状態は良くなると考える人も出てきます。確かにそれぞれの費用の比率は売上高が増えれば少なくなっていきます。

例えば売上高が400万円の場合、材料費が5%、外注費が2%、工場内人件費率が15%とすれば、それぞれ20万円、8万円、60万円です。売上高が1.25倍の500万円に増えれば、対売上高比率は5%から4%に、2%から1.6%、そして15%から12%に下がります。対売上高比率が減ることで一見すると経営状態が良くなったと思うかもしれません。確かに固定費と呼ばれる家賃や給与、店舗人件費等々の費用も対売上高比率が少なくなります。

しかし現実は残酷です。先に挙げた材料費や外注費といった費用は変動費と呼ばれ、売上高に比例してかかる費用です。売上高が増えれば当然それらの費用も比例して増えることになり、対売上高比率は変化がなく金額はその比率分だけ増えるので、利益が良くなることはありません。

売り上げを増やすには

売り上げを増やすには、実は二つの方法しか手立てはありません。ひとつは新規のお客様を増やすことであり、もうひとつは客単価を上げることです。新規のお客様を増やす。そう言うことは簡単です。しかし「言うは易く行うは難し」で、おいそれとは事が運びません。まず、新規のお客様とはどんな方でしょうか。まったくクリーニング店を利用していない人は要るにはいますが数は少ない。となれば新規のお客様とは、もう既に他のクリーニング店を利用している人に他なりません。

まず他店を利用している消費者に、ここにこんな良いクリーニング店があることを知ってもらわなければなりません。ではどのように知らせるのか。新聞の折り込み広告で知らせるのか。ポスティングのチラシで知らせるのか。Google Business Profile(グーグルビジネスプロフィール)といったネットを活用するのか。媒体は色々あるでしょうが、そもそも既に他店を利用している消費者が、今利用しているクリーニング店に何らかの不満を持っていれば、それらの広告に反応することはあるでしょう。

しかし利用しているクリーニング店にそれほど大きな不満がない場合、果たして折り込みやポスティングで配られたチラシの内容を詳しく読むと思いますか。ましてや、ネットは消費者が自ら進んで調べに行かなければ目にすることはありません。いやはやとんでもなく難しいではありませんか。

いつも利用する美容院や理髪店のすぐ近くに、開店10周年特別サービスと銘打って「半額割引きサービス」をおこなっている美容院や理髪店が有っても、皆さんはその店に足を運ぶでしょうか。まずそんな方はいないでしょう。なぜなら、どの店も同じ品質やサービスを提供していないからです。

クリーニング店も同じです。たとえ同じ溶剤で同じような機械で洗い、同じ機械で仕上げる。確かによく似た品質を提供できているかもしれません。しかし、各人各様希望する仕上がりは違っています。それを新しい店に伝えるのは面倒な作業であり、それでも希望する仕上がりになるとは限りません。つまり、新規のお客様を増やすことは、至難の業と言わざるを得ないのです。

ましてや今、日本は人口減少がかなりのスピードで進んでいます。2004年に12,784万人のピークを迎えた人口は、2030年には9,515万人、2100年には6,407万人(高位推測)まで減ってしまいます。<図表-1 参照>毎年平均71万人(2004年から2050年までの計算)もの人口が減っていくのです。ピンときません。

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出典:『国土の長期展望』中間とりまとめ 概要(平成23年2月21日国土審議会政策部会長期展望委員会)


2025年現在で71万人前後の都道府県は、佐賀県79万人、福井県74万人、徳島県70万人、高知県66万人、島根県64万人、鳥取県53万人です。これらの県が毎年消滅していると考えれば分かり易いでしょうか。いやはや大変な事態です。地方都市ほど顕著であり、このような状態で新規客を増やせとなると、かなり難しくなるでしょう。

その上に、人口の高齢化も急速に進んでいます。15歳から64歳までの働き手の人口数である生産年齢人口の減少です。これも1995年の8,716万人をピークに2050年には5,275万に減少します。<図表-2 参照>クリーニングに出す人が極端に減っていくのです。これで新規のお客様を増やせと言われるのでしょうか。


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出典:内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」





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この記事の著者

瀧藤圭一* (たきふじけいいち)

有限会社エルコーポレーション 代表取締役

有限会社エルコーポレーション代表取締役。

1957年 大阪市生まれ。

クリーニングの営業に興味を覚え、外交専門のクリーニング店へ入る。1985年に独立。1990年にユニット店「クリーニング エル」を開店。


現在は、長年の実経験に基づくコンサルタント&サポートに軸足を移すも、現場感覚が大切と、今も外交営業を続け市内を走り回る。

全国で経営、外交営業に関する講演活動及びコンサルタントを展開中。

業内においては、外交営業について講演できる唯一の逸材。


また、「経営は会計にあり」の基、店舗戦略をはじめとした経営実務とクリーニング業に即した会計の講座を年間スケジュールで開催。


売上も大事、利益も大事、しかしキャッシュはもっと大事の考え方を中心に、年収アップを目指す講座は人気を博し、大阪はもちろん、茨城、東京、八王子、神戸、広島、松山、浜松、福岡でも6回連続の講座をおこない、これまで1回完結の講座も含め、全国で延べ18講座を開催。


今尚、実務に即した講座、「戦略会計実践塾」を継続中。実践に基づいた経験と数理的な分析を加味し、わかりやすく成功理論を説く。


<著書紹介>

◆ クリーニング現場からのクレーム対応(完全版)

◆戦略会計入門

◆新版・目からウロコの外交営業マニュアル(実践編)

◆新版・目からウロコの外交営業マニュアル(基本編)

◆ポイントがわかるとスラスラ読める超かんたんクリーニング業の決算書読み方入門

◆ユニットショップ 経営でもっとも大切な事

◆ルート外交マニュアル最終完結版


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