最終更新日:

瀧藤圭一の戦略会計【実践編】

売り上げの時代は終わった 利益を残すクリーニング経営への転換

有限会社エルコーポレーション 代表取締役

瀧藤圭一* (たきふじけいいち)

なぜ今、戦略会計が必要なのか

2026年6月のクリーニング売上状況をうかがうと、多くの企業から「総じて低調だった」という声が聞かれます。確かに6月は雨が多く、東日本や西日本の太平洋側を中心に、一時的に肌寒い日が続くなど、気温が低めに推移する時期がありました。売り上げだけでなく、客数や受注点数そのものが大きく減少したという声も少なくありません。このままクリーニング業界は、衰退の一途を辿るのでしょうか。

前回も記述したように、カジュアル衣料だけでなく、ビジネス衣料でさえウォッシャブルスーツや形状記憶シャツといった家庭で洗濯できる衣服が増えています。ましてや、今や高級品と化したクリーニングには、経済的理由でクリーニングに出したくても出せない消費者も増えています。その結果、クリーニング業界を取り巻く経営環境は、ますます厳しさを増しています。

それに加えて、日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに2025年の1億2300万人まで14年連続で減少が続いています。着用後の衣服を扱うクリーニング業にとって、衣服を着る人自体が減る今の状態では、今後も客数、受注点数の伸びは期待できないと考えなければなりません。もっとも、廃業するクリーニング店も後を絶たず、それらを利用していた消費者が、存続店に来店することで客数、受注点数が増えるといった、廃業した店舗の利用客が流入し、結果として恩恵を受けるケースもあります。しかし、今後、料金の安さでクリーニング店を選ぶ消費者は少なくなるばかりか、日本の人口そのものが減るわけですから、クリーニングを利用する消費者全体も減少すると考えなければなりません。となると、客数や受注点数の減少は、もはや避けられない現実といえるでしょう。売り上げの増加を前提とした経営は、今後ますます難しくなると考えなければなりません。

ZEN-20260715-08-01

これまでの常識にとらわれない

これまでの経営は、『企業を維持するためには一定の売り上げが必要である』という考え方に支えられてきました。しかし、売上減少が続く今の状況においても、存続し且つ発展していくには、これまでのように売上高に注力するのではなく、利益を重視する経営に変えていく必要があります。客数や受注点数の減少を嘆くだけでは、何も解決しません。大切なのは、利益を意識し、手元に残る現金を増やす経営へと発想を転換することです。処理にどれだけの費用が必要であり、企業を維持するために必要な費用はいくらになるのか。それらを把握することが重要です。そのためには、会計の知識が欠かせません。財務会計、管理会計の違いはありますが、まずは本業の利益である『営業利益』がどのような状態で産み出されるかを把握することが大切です。その上で、今より売り上げが減っても必要な営業利益を確保できるか、いかに効率良く営業利益を増やせるかを考えなければなりません。これからの時代に求められるのは、『どれだけ売り上げたか』ではなく、『どれだけ利益を残したか』を問われる経営です。そのためには処理原価や固定費を正確に把握し、営業利益がどのように生み出されるのかを理解する必要があるでしょう。

売り上げの増加が見込めない時代において、営業利益を増やす方法は二つしかありません。費用を削減すること。そして、適正な料金設定を行うことです。

その費用ですが、クリーニング業の場合は、大きく分けて店舗にかかる費用と処理部門にかかる費用があります。もちろん、業種を問わず、最も大きな費用を占めるのは人件費です。したがって、まず着目すべきは、この人件費をいかに適正な水準に抑えるかという点です。しかし、店舗にかかる人件費は営業時間に比例しますので、この人件費を削るには営業時間を少なくするしか手立てはありません。最近は、受付ロッカーや無人受付ロボットといった無人化によって店舗にかかる人件費を少なくする手法も見受けられます。しかし、クリーニングの受付から引き渡しまでを完全に無人化する取り組みは、現時点ではまだ十分に消費者へ浸透しているとは言えません。

となると、重要になるのは処理部門の費用の削減です。もちろん、処理部門においても最大の費用が掛かるところは人件費です。したがって、いかに人件費を適正化するかが経営の重要課題になります。そのためには、今現在、どれだけの人件費がかかっているのかを把握し、それが適正な金額かどうかを調べなければなりません。もちろん、法定福利費や交通費、教育費といった人を雇用するために必要な全ての費用が人件費にあたります。その人件費が適正かどうかを判断する指標が、『労働分配率』です。これは売上高から処理原価を除いた売上総利益に占める総人件費の割合を示したものです。例えば売上高0.5億円から1億円の全企業平均値は52.9%。売上高1億円から2.5億円の全企業平均値は54.6%になっています。(図表参照・2024年TKC分析より)

ZEN-20260715-08-02

しかしながら、利益があまり出ていない企業や赤字に陥っている企業においては、総じてこの数値が高めに出ています。この数値が高い企業は、人員配置に無駄があるか、あるいは作業効率に課題を抱えているケースが少なくありません。少なくても営業利益率を黒字企業の平均値である4.1%までに引き上げるには、この労働分配率をせめて60%前後までに納めなければなりません。そのために必要なのが、業務プロセスの見直しと、利益を正確に把握するための収益管理なのです。

『どれだけ売り上げを増やすか』ではなく、『どれだけ利益を残すか』が企業の成長を左右します。そのためには、業務プロセスの継続的な改善と、収益を正確に把握・管理する経営体制の構築が不可欠であり、これら利益体質の強化こそが企業の持続的成長を支える重要な基盤となるのです。

利益を生み出す業務プロセス改革

この業務プロセスとは、仕事の進め方そのものを指します。それを改善することとは成果だけを見るのではなく、その成果を生み出す過程そのものを分析し、改善することが重要です。つまり、事業活動の中で行われている一連の業務の流れを見直し、より少ない経営資源で、より高い成果を生み出せるようにすることが業務プロセスの改善にあたります。

ZEN-20260715-08-03

多くのクリーニング企業では、長年にわたって業務を続けるなかで、『昔からこうしてきたから』『前任者から引き継いだから』といった理由だけで残っている業務が少なくありません。本来であれば不要な作業や非効率な手順が、慣習として残り続けているケースも数多く見受けられます。とりわけクリーニング業は、長年にわたり職人の経験と勘が重視されてきたため、この傾向が強い業界であると言えます。業務プロセスの改善は、こうした特定の人だけができる技術や長年常識とされてきた慣習、それに伴う無駄を洗い出し、業務の簡素化や標準化、機械化や自動化を積極的に活用することで、生産性や品質の向上を図るものです。

例えば、受付、検品、洗浄、仕上げ、包装、引き渡しといった工程があります。業務プロセス改善とは、それぞれの工程を個別に改善するだけでなく、受付から引き渡しまでの流れ全体を俯瞰し、『待ち時間はないか』『作業の重複はないか』『人でなければできない仕事か』といった視点から見直すことを指します。業務プロセス改善の目的は、単なるコスト削減ではありません。作業時間の短縮による生産性の向上、品質の安定化、従業員の負担軽減、さらには顧客満足度の向上など、企業全体の競争力を高めることにあります。人手不足が深刻化するこれからの時代、『人を増やせば解決する』という発想そのものに限界がきています。そのため、限られた人員でより大きな成果を生み出すための業務プロセス改善は、企業の持続的成長に欠かせない経営課題となっています。

要するに業務プロセスの改善とは、『仕事のやり方そのものを見直し、より少ない経営資源で、より高い成果を生み出せる仕組みへと変革すること』です。人口減少と人手不足が進むなかで、企業に求められているのは、『人を増やす経営』ではなく、『仕組みで成果を上げる経営』です。

今後のクリーニング業界において、その重要性はますます高まっていくでしょう。

この記事は、有料会員限定です

  • 有料会員登録すると、全ての限定記事が閲覧できます。
  • この記事のみ購入してお読みいただくことも可能です。
  • 記事価格: 300円(税込)

この記事の著者

瀧藤圭一* (たきふじけいいち)

有限会社エルコーポレーション 代表取締役

有限会社エルコーポレーション代表取締役。

1957年 大阪市生まれ。

クリーニングの営業に興味を覚え、外交専門のクリーニング店へ入る。1985年に独立。1990年にユニット店「クリーニング エル」を開店。


現在は、長年の実経験に基づくコンサルタント&サポートに軸足を移すも、現場感覚が大切と、今も外交営業を続け市内を走り回る。

全国で経営、外交営業に関する講演活動及びコンサルタントを展開中。

業内においては、外交営業について講演できる唯一の逸材。


また、「経営は会計にあり」の基、店舗戦略をはじめとした経営実務とクリーニング業に即した会計の講座を年間スケジュールで開催。


売上も大事、利益も大事、しかしキャッシュはもっと大事の考え方を中心に、年収アップを目指す講座は人気を博し、大阪はもちろん、茨城、東京、八王子、神戸、広島、松山、浜松、福岡でも6回連続の講座をおこない、これまで1回完結の講座も含め、全国で延べ18講座を開催。


今尚、実務に即した講座、「戦略会計実践塾」を継続中。実践に基づいた経験と数理的な分析を加味し、わかりやすく成功理論を説く。


<著書紹介>

◆ クリーニング現場からのクレーム対応(完全版)

◆戦略会計入門

◆新版・目からウロコの外交営業マニュアル(実践編)

◆新版・目からウロコの外交営業マニュアル(基本編)

◆ポイントがわかるとスラスラ読める超かんたんクリーニング業の決算書読み方入門

◆ユニットショップ 経営でもっとも大切な事

◆ルート外交マニュアル最終完結版


㈲エルコーポレーションHP
E-mail

関連記事