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ドンブリ勘定は危険です!

会計の知識が経営上、必要不可欠

有限会社エルコーポレーション 代表取締役

瀧藤圭一 (たきふじけいいち)

会計の話に進む前に、そもそも、どうして会計の知識が経営上、必要不可欠なのかを例を挙げてお伝えします。

一年で一番忙しい春の繁忙期も、六月の後半にもなるとそろそろ終わりでしょうか。業界の不思議に、繁忙期の割引きセールがあります。この時期、そこかしこで「割引きセール」の文字が踊ります。二割、三割、時には半額の文字まで見られます。どうして最も集荷が見込める時期にセールをするのでしょう?他の業界では、高くなることはあっても、安くなることはまずありません。

そこで、そのわけを聞いてみました。「他店を利用しているお客様を獲得したいから」や、「既存客を他店に取られない為」とか、「お客様に対する感謝の気持ち」といった声を聞く一方で、「毎年やっているから」とか、「周りがやっているから」といった声も聞きます。しかし、何か釈然としません。割引きをすることで、いつもは他店を利用しているお客様がこちらへ来るのでしょうか?割引きしないのなら、他店へ行ってしまうものでしょうか?それはさておき、割引きが止められない一番の理由は、売上が下がらないか?他店にお客様をとられないか?と心配するからです。売上が下がると、さあ大変。現金がショートして、お店が立ち行かなくなると考えてしまう。そこには、売上こそが大切と思う考え方があります。

確かに売上も大事ですが、利益の方がもっと大事です。その上に、手にする現金が一番大事なのです。そこで、会計の登場です。会計が分かっていると、たとえ売上が下がっても心配することはありません。逆に利益が増えることもあるのです。にわかに信じられないでしょう。しかし、現実に起こっているお話です。では、分かりやすく例を挙げて説明します。

平均単価400円、変動費率35%のクリーニング店があります。この変動費率とは、売上高の増減に比例して変化する費用の割合です。平均単価400円の場合、変動費は140円になります。つまり、1点処理をするに当たり、必要になる費用が140円ということです。毎年、春の繁忙期に30%引きの割引きセールをおこない、560万円の売上高があります。ところが、今年は思い切って割引きセールを止めたところ、売上高が100万円も少なくなり、460万円になってしまいました。さあ大変です。100万円のダウン。率にすると17.9%も売上高が下がってしまいました。しかし、慌てるのは早計です。それでは、それぞれの利益を計算することにします。

まずは、割引きセールをおこなっていた時の利益の計算です。ここで、会計用語のひとつ、「限界利益」という言葉が出てきます。これは、「ぎりぎりの利益」という意味ではなくて、「売上が1単位増えることで増える利益」のことを意味します。受注点数が1点増えることで増える利益になります。この「限界利益」から固定費を差し引くと、本業の儲けを示す「営業利益」が求められます。また固定費とは、売上の増減に関係なく一定額発生する費用のことです。例えば、店舗の家賃や社員の給与等がこれに当たります。式で表すと、売上高-変動費=限界利益。限界利益-固定費=営業利益となります。

30%引きの割引きセールをおこなったので、平均単価は280円。それで560万円の売上高ですから、560万円÷280円で、2万点の受注です。では、さっそく限界利益を計算してみます。注意すべきは、変動費。30%引きの割引きセールをおこなったら、資材類や燃料費、作業をおこなうパートスタッフの時間給が安くなるのでしょうか?そんなことは決してありません。たとえ30%引きのセールをおこなったとしても変動費は安くはならず、140円のままだということです。となると、(280円-140円)×2万点となり、限界利益は280万円。ここから固定費を差し引き、営業利益を算出します。たとえば、固定費が150万円であれば、営業利益は130万円になります。

一方、割引きセールを止めたので、460万円にダウンした場合を計算してみましょう。割引きを止めたので平均単価は400円のままです。受注点数は、460万円÷400円で、1万1,500点。限界利益は、(400円-140円)×1万1,500点で、299万円。営業利益を計算すると、固定費は先ほどの150万円と変わらないので149万円となります(固定費は割引きをしてもしなくても変わりません)。売上高が下がったにも拘わらず、営業利益が増えてしまいました。その上、2万点の受注から1万1,500点の受注に減るわけです。1か月を25日で計算すると、1日800点の入荷量から460点に激減することになります。現場スタッフの感覚は、ものすごく暇になったと感じることでしょう。それでも、割引き時と比べて、19万円も利益が増えてしまうのです。これはマジックでも魔法でもありません。割引きで料金を下げても変動費は変わらないという、会計の知識さえあれば簡単に計算できることなのです。

実際は、これほどまで点数が減ることはまずありません。もしも減るのであれば、それはその店が、料金以外お客様にアピールできるものがほとんど無かったことを意味します。例えば、割引きを止めた結果、点数が2割減って1万6,000点になったとします(これでも減り過ぎです)。売上高を計算すると、400円×1万6,000点で、640万円。限界利益はというと、(400円-140円)×1万6,000点で、416万円。先ほどと同じ固定費が150万円であれば、266万円もの営業利益が生まれます。割引き時に比べ、売上高も増え、利益も倍以上確保できることになります。

売上が上がって、利益も増えて、それでいて身体が楽に。その上、事故も減り、クレームも激減します。これでもまだ繁忙期の割引きセールを続けるのですか?

この記事の著者

瀧藤圭一 (たきふじけいいち)

有限会社エルコーポレーション 代表取締役

有限会社エルコーポレーション代表取締役。

1957年 大阪市生まれ。

クリーニングの営業に興味を覚え、外交専門のクリーニング店へ入る。1985年に独立。1990年にユニット店「クリーニング エル」を開店。


現在は、長年の実経験に基づくコンサルタント&サポートに軸足を移すも、現場感覚が大切と、今も外交営業を続け市内を走り回る。

全国で経営、外交営業に関する講演活動及びコンサルタントを展開中。

業内においては、外交営業について講演できる唯一の逸材。


また、「経営は会計にあり」の基、店舗戦略をはじめとした経営実務とクリーニング業に即した会計の講座を年間スケジュールで開催。


売上も大事、利益も大事、しかしキャッシュはもっと大事の考え方を中心に、年収アップを目指す講座は人気を博し、大阪はもちろん、茨城、東京、八王子、神戸、広島、松山、浜松、福岡でも6回連続の講座をおこない、これまで1回完結の講座も含め、全国で延べ18講座を開催。


今尚、実務に即した講座、「戦略会計実践塾」を継続中。実践に基づいた経験と数理的な分析を加味し、わかりやすく成功理論を説く。


<著書紹介>

◆ クリーニング現場からのクレーム対応(完全版)

◆戦略会計入門

◆新版・目からウロコの外交営業マニュアル(実践編)

◆新版・目からウロコの外交営業マニュアル(基本編)

◆ポイントがわかるとスラスラ読める超かんたんクリーニング業の決算書読み方入門

◆ユニットショップ 経営でもっとも大切な事

◆ルート外交マニュアル最終完結版


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